かたくりかたこりかたつむり

やっぱり誤字脱字は氷山の一角

『深世海 Into the Depth』レビュー:完成度の高い独特の世界観を持った小品。あと意外とアクションゲーム

はじめに

このゲームをプレイしたのは2022年なんですが、実を言うとiOS版の頃(2019年ごろ)から知っていました。なのにやってなかった。なぜかと言うと、お気に入りのいわゆる「雰囲気ゲー」タイトルのガワだけを真似た某スマホゲームが出たことがあって、これもそういうやつなんじゃないかと警戒したのですね。

「深海が舞台」「主人公はダイバー」「お供の機械」「謎に包まれたポストアポカリプスもの」という要素が『ABZÛ』とダダ被りしとるやないけ! と、雰囲気が好みで気になりつつも手を付けずにいたわけです。結論から言うと『ABZÛ』とは全然違うゲームでしたが。

というわけで、発売から3年ほど経ってのプレイになりました。非常に好みなので、早くやればよかったかな。でもプレイした時がふさわしい時なのだということで。ちなみにプレイしたのはSwitch版です。

※いちいち「雰囲気ゲー」とカッコに入れているのは、この名前には蔑称のニュアンスが含まれるけども、私はそういう意図で使ってないという意味です。

ストーリーとゲームプレイ

海底の難破船で暮らしていた主人公「潜海者」は、ある日、氷に侵食されて棲家を失ってしまう。そして出会った機械「潜導」と共に、この世界の謎を知るため深く深く潜っていくことになる。

ゲームジャンルとしてはメトロイドヴァニア。最初は行ける広さも深さも限られていて、特に潜水服が耐えられない水深まで潜ると、あっという間に圧死してしまう。深海は怖いとこだ。

海に転がっている酸素ボンベを集めたり、海底に眠っている資源を採掘したりしながら、少しずつ行動範囲を広げていく。

舞台はなんせ海の中なので、主人公はフワフワと浮遊感のある移動をする。あるいは酸素ボンベを消費して、酸素の噴射による推進力で高速移動したりと、まず操作感だけで独特。ゆったりとした曲をBGMにフワフワ~ブシューフワフワ~ブシューと移動していると、広い深海でひとり孤独に生きている感じがして、死の危険と隣り合わせでありながら何とも落ち着く。

ユニークな形状の深海生物たちが、この世界の非現実さとリアリティを象徴するかのよう。

本当にこういう形なんだもんな

ちなみに深海生物は普通に攻撃してくるので、持っているギャフとかで倒す。ギャフって何だと思ったが、ギャフはギャフらしい。

広大な深海のどこへ行っても主人公の仲間の姿はない。あるのは捨て置かれた酸素ボンベや建造物だけ。主人公もそのことを分かっているのか、ところどころで祈りを捧げる光景が見られる。

建造物に残されたデータからうっすらと読み取れる、かつての文明や何らかの計画。なんだ、穏やかでないな。

そしてついに最深層へと至った主人公は、仲間たちが築いたものと、ある重要な存在と対面することになる…。

アート&サウンドトラック

このゲームを特徴づけている要素のうち、非常に大きなウェイトを占めているアートとサウンドトラックについてです。

私は視覚優位な人間なので、ビジュアルが好みかどうかでプレイするゲームをほぼ決めるところがあります。それに視覚表現から意図を読み取るのも得意なので、その中に作り手がゲームの面白さを伝えたいという狙いが表れているものが好きなんですよね。間接的にコミュニケーションができるからだと思う。

デザイン

一口にデザインと言っても、ざっくり少なくとも以下くらいには分かれます。

  • ロゴデザイン
  • UIデザイン
  • キャラクターデザイン
  • 背景デザイン

が、まあそんなことは気にせずざっくり書いていきます。

何と言っても、独特な文明を感じさせる随所のデザインが魅力。

ゲームタイトルのロゴタイプと同様、あちこちに見られる篆書体ベースの文字。アイテムを表す読み方の分からない記号。和風レトロなグラフィック。

和風スチームパンクとでも呼べばいいのか(蒸気機関ないけど)、ポストアポカリプス世界の深海生物のようなフォルムの人工物や機械生物。

ところどころに現れる、神聖でどこか仏教的な雰囲気を纏った建造物やモチーフ。

そして深海の生物たち。

これらひとつひとつが合わさって、知っているけど知らない、絶妙な距離感の謎めいた世界が出来上がっています。

サウンドトラック&効果音

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サウンドトラックも聴き応えのあるものばかり。通常のフィールドでは、深海を思わせるリバーブの効いたくぐもった音色と、ゆったりしたビートが印象的。個人的にハンドパンの音色が深海感が強くて好き。

こういう音色の楽器ね

ところがボスとのバトルになると、一転して激しいプログレめいた音楽が流れ出す。ベースがブイブイいったり、コンガがポコポコ鳴ったり、テンポの緩急の差がすごい。

効果音もとてもこだわって作られていて、インタビューを読むと水中で鳴っている感じを出すために、実際に水中で録音した音もあるそう。そういうこだわりって、言語化できなくても意外とプレイヤーに伝わってるもんなんですよね。

ゲーム中の音に対して、水中感をどのように付与させるか、この部分に異常に意固地になりました。まずは試行錯誤の連続で、エフェクターとかプラグインで水中感が出るように模倣してみたり、カプコンのフォーリーアーティスト北村武さんと収録検証を重ねたり。

深世海 Into the Depths音のちょっとだけ深い話其ノ壱 音制作 全体編より

アートもそうですが、ローファイなサウンドがどこかレトロフューチャー的な「古さと新しさが同居した感じ」を醸し出しています。

こだわりといえば、ボーカル入りの歌詞は架空の言語を作って歌ってもらったとのこと。架空言語が使われるゲームや音楽は結構ありますが、この辺も「謎の文明」の演出に一役買っているんですね。

歌詞の制作に関しては、カプコンの坂口さんが担当していて、深世海言語という架空の言語を使っています。もともとセリフの無い本作ではあったのですが、言葉という概念は失われていないということを象徴したかったのです。

深世海 Into the Depths音のちょっとだけ深い話其ノ参 音楽 後編より

クリア後おまけ要素の自動演奏装置(サウンドテスト)では、海中エフェクトのかかっていないバージョンのトラックも聴けます。UIもレコードプレーヤーを模しててナイス。

終盤のシナリオの引っかかりと、『深世海』が私にとってのナラティブゲームになり得なかった理由

プレイし始めてすぐに気付きましたが、『深世海』はいわゆる「雰囲気ゲー」ではあっても、「ナラティブ(を特に重視した)ゲーム」ではないです。特に最近の「雰囲気ゲー」にナラティブ重視の作品が多いこともあって、プレイ前はちょっと混同していたんですね(私が最初に連想した『ABZÛ』もナラティブを重視したゲーム)。実際には「雰囲気ゲー」でなくてもナラティブ重視のゲームがあるように、「雰囲気ゲー」が必ずしもナラティブ重視とは限らない。

それが顕著になったのが、ラスボス戦の前後のシナリオです。端的に言うと、すごくモヤモヤする流れだったために、そこで私のゲーム体験が途切れてしまいました。

ラスボス戦の後、エンディングは2つに分岐。しかしそれは主人公(=プレイヤー)の選択は関係なく、あくまで戦いの勝敗によって決定されます。ラスボスに負ければバッドエンド→ニューゲーム、勝てばグッドエンド→ニューゲーム。

なお、普通にプレイした場合、初見ではまずラスボスに負けてバッドエンド、2回目以降にラスボスに勝ってグッドエンドを迎えるプレイヤーが多いんじゃないかと思います。

確かにストーリーの流れとしては、苦戦した上でグッドエンドを迎えるべきです。でも、私は最初に負けて、すごくモヤモヤしたから再戦して勝っただけ。アクションゲームの勝ち負けはストーリーの分岐点にはなり得ても、「プレイヤーの選択」ではないですよね。再戦すること以外、私は主人公の行動を選んだわけではなかった。

ゲームにおいては、通常「敵に負けた結果迎えた展開=間違い、良くない」と感じるのが普通です。だからこそ、それを逆手に取ることも可能ですが、『深世海』のエンディング分岐はあくまで通常のゲームのプレイ感覚に則ったものです。

例えば、ラスボスに負けてもエンディングは迎えずにリトライとなるのであれば、「何とかラスボスに勝って掴み取ったエンディング」という体感が強くなるはず。しかし『深世海』では、ラスボスに負ける=バッドエンド。となると、「バッドエンドを回避してグッドエンドを迎えるために、ラスボスに挑戦して勝つ」という、極めて「ゲームゲームしい」体験の方が勝ってしまう気がします。エンディング分岐が勝ち負けに依存するのもゲムゲムしいです。そこはアクションゲームとしての側面が強く出ています。

プレイヤーの選択によってはラスボスと戦うことになる(あるいは戦闘回避→エンディング)、というシナリオの方が私は納得できたかも。ストーリーや主人公の思考に解釈の余地があるので、そこは「間違い/正しい」と感じられてしまう分岐条件にはしないで欲しかったなー。

実のところ、バッドエンドも「ある意味アリ」なエンドとして用意されているフシもありますが、実際にプレイすると、上述の理由でバッドエンドは明らかに克服されるべきものと感じてしまいます。だからこそモヤモヤが増したんですよね。こうなると体験うんぬんよりは、「どうやって正解に辿り着くか」の方を重視するのがプレイヤーとして自然かと思います。

ラスボスと再戦して勝ったエンディングの方が明らかにスッキリしたので、そこに綺麗に辿り着けなくて惜しかったという話でした。

クリア後のおまけのひとつにタイムアタックモードがあるので、そもそも『深世海』は割とアクションゲームの要素も強い。

ちなみに、バッドエンドはモヤモヤはするんですが、最後の演出が明らかにバッドエンドでありつつメリーバッドエンド的なところもあるので、「もっと自信を持って見せてくれよ!!」となってしまう。メリバるならもっと晴れやかな気持ちでメリバを迎えたいし、ゲームとして「ラスボスに勝つ」という当然の欲求を経るといわゆるグッドエンドにたどり着くのも、負けた結果メリバにしないで! メリバに自信を持て! と言いたい。ついでに、グッドエンドも若干ビターな感じではあります。メリグ…?

※今更「メリーバッドエンド」の定義を調べたのですが、解釈にけっこう幅があるんですね。今回は「一見不幸だけど、見方によっては幸福に思える」という意味で使ってます。

おわりに

2022年という何とも遅まきながらのタイミングであれ、『深世海』をプレイできたのはよい体験でした。当初の疑いとは裏腹に、きちんとしたコンセプトのもと、特にアート面の細部にまでこだわって作られた作品で、独特のビジュアル表現を堪能できます。ちょいちょい気になる部分はありつつも、アート面で十分お釣りが来ますね。ただ、割と普通にアクションゲームですよ、とだけ言い添えておきます。

画像はすべて『深世海』より