かたくりかたこりかたつむり

やっぱり誤字脱字は氷山の一角

『Mosaic』感想・レビュー:現代社会のルーティンに埋もれて、ささやかな反抗の夢を見る

ノルウェーのスタジオ・Krillbite Studioによる、現代社会の風刺を多分に含んだアドベンチャーゲーム。『Mosaic』が体験させるのは、クソみたいな現代社会の生活から、ふとしたきっかけで抜け出すまでの物語だ。

舞台の大枠は割とストレートな管理社会もの。そこに現代社会のテクノロジー/資本主義批判が乗っかっており、そこだけ見るとすごくありがちで凡庸な設定に思える。ただ、これはプレイヤーが自分で動いて体験する「(ビデオ)ゲーム」という媒体の作品なので、妙にリアルな現代社会の日常ルーティンが説得力を持つんである。冷たい色彩と抽象的なローポリのアートスタイルも、プレイヤーの想像力をかき立てる。

アラームに起こされて目覚めると、ベッドの上には着替えもせずに(多分3Dモデルの節約だけど)寝てしまっただろう主人公が。そして手にしたスマホから目に入るのは、クソなメッセージやクソなニュース、中毒性の高いポチポチゲーアプリ。

特に巷で流行中というポチポチゲー『BlipBlop』は「時々レベルが上がる演出が入る以外は、基本的に数字が増えるだけで特に面白くもないはずなのに、なんとなくダラダラとプレイしてしまう」という、まさに非常によくできた暇つぶし虚無ゲー。ゲームの中でポチポチゲーにはまってしまう。虚無。更に、ゲームを進めると放置ゲー要素も追加されるので、用がなくてもついついスマホを見てしまうというおまけつき。ベッドの上で、洗面所で、キッチンで、朝の時間を虚無なポチポチゲーに費やしてしまう。リアルすぎる。ちなみに歩きスマホもできる。

なお『BlipBlop』は実際にゲームアプリとしてリリースされるという凝りよう。

www.mosaiccorp.biz

そして朝の時間を虚無に過ごしていると、遅刻によって仕事の契約が打ち切りになるという警告が。

遅刻回数による契約打ち切り警告、溜まる支払い、スカスカの冷蔵庫、足りない残高。部屋を出たら出たで、ポストには支払いの通知が入っており、そっと見なかったことに。とまあ、控えめに言ってクソみたいな生活をしている主人公だが、誇張されているとはいえ、プレイヤーが多かれ少なかれ経験していることでもある。

そして、主人公を含めたこのアパートの住人たちはモニタリングされているらしい。おお、管理社会ものっぽいぞ。でも、スマホを持ち歩いたり、監視カメラのある場所を歩き回っている限りは、現実社会も似たようなもんと言えなくもない。

禁止事項、多。

人混みに混じって駅まで行き、そこから地下鉄に乗る主人公。道中に現れる広告はというと、マッチングアプリ、ビジネス、エナジードリンクハイブランドの服、(更に働くための)睡眠薬、仮想通貨、そして虚無ポチポチゲー。資本主義! 資本主義ここに極まれり! ご丁寧に、マッチングアプリで出会う相手は名前と年齢以外はさほど変わり映えのしない人物ばかり。仮想通貨は買った途端に相場が下がり、売った途端に上がる。クソですね。

そして、ベルトコンベア上の部品のように運ばれた先でお仕事。その仕事はといえば、ポチポチゲーBlipBlopに似た謎の作業。エクストラクタからゴールへリソースを運ぶ、陣取りゲームのようなものである。ご丁寧に毎回マイルストーンが設定され、「リソースが足りません!」だのなんだの指示が飛んでくる。クリアしましょう、ゲームみたいにね。

しかしある日、洗面所になぜかしゃべる金魚(出目金?)が現れたところから、主人公のクソ生活に少しだけ変化が起こり始める。

ふと迷い込んだ道の先々で、主人公は夢想する。ある時は巨大な建築物やクレーンが崩れ去り、またある時は胡蝶の夢のように黄色いチョウの視点から無機質な建設現場を飛び交う。そして意識が現に戻ってくると、聞こえてくるのはストリートミュージシャンたちの奏でる音楽。日常に差し挟まれるちょっとした白昼夢が、飼い慣らされたルーティンからやがて抜け出す鍵となる。

主人公の仕事内容は、人々が置かれた状況の直接的な説明かつメタファーである。地下鉄入り口のデザインが示す通り、人々はみな、エクストラクタで抽出され、ベルトコンベアで運ばれてゆく「リソース」に過ぎないのだ。

抵抗の対象となるのは、主人公の勤め先である、全てを牛耳る悪の企業(仮)・Mosaic。管理社会もの、テクノロジー批判ものあるあるである。ただ、『Mosaic』はセリフが少なく、かつ体験重視のゲームのため、舞台装置やストーリーラインは多少手垢がついていても問題ない。むしろある程度は型にはまっていた方が理解がスムーズになる。

ただ、「最新テクノロジーによる管理 VS. 音楽や動物・自然からのインスピレーション」というありがちな対立軸を設けてはいるが、『Mosaic』での抵抗は管理社会もののセオリーに従いつつも穏やかな部類に入る。クリア時の開放感はあくまで暖かくて優しい

インディーゲームなこともあり、ゲーム自体のボリュームはコンパクト。けれどゲーム体験としてはなかなかに豊かなものが楽しめる作品だと思う。

余談:主人公のデザインについて

本作の主人公はおそらく男性だが、それにしては骨盤が広い(=女性っぽい)。これは他のモブキャラクターと比べてみると一目瞭然で、単なる画風の話ではないことが分かる。

また、ゲーム内のマッチングアプリでは主人公の性別を男女どちらかから選択可能。

インディーの限られたリソースの中で、可能な限り広い性別や性的指向のプレイヤーをカバーしようとする意図が見て取れる。このあたりは今時のゲーム、北欧のゲームという感じがする。

とはいえ、マッチングアプリ自体は「伝統重視」で「異性とのマッチング」を提供するサービス、というところが皮肉。

『はねろ!コイキング』の主人公なんかも男女どっちにも見えるデザインだったりする。ローカライズのコスト軽減を狙ってテキストの少ないゲームが増えるのと似たようなもんかな。

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