かたくりかたこりかたつむり

やっぱり誤字脱字は氷山の一角

『NieR Replicant ver.1.22474487139...』感想文 私は本編で(も)地獄を味わいたいんだ

※本編その他のネタバレを含みます。

はじめに

「ナラティブ(・ゲーム)」という、ちょっと前、いや結構前からビデオゲームについてよく使われる表現がある。ざっくり言うと「プレイヤーの体験そのものが物語になるゲーム」ということらしい。

www.jp.playstation.com

分かりやすい例では『風ノ旅ビト』。なお「ナラティブ」が何なのかは私にはよく分からない。

でも、この『ニーア レプリカント(のリメイク版)』は、ナラティブというよりは非常にゲーム的で考察マニア向け、いわゆる90年代の雰囲気と言ったらいいだろうか。

実は最初、このゲームについて何と言えばいいのかがよく分からなかった。それは多分、ナラティブ・ゲーム的なレビューを書こうとしていたから。『ニーア レプリカント』にもナラティブ的な要素がないわけではないが、非常にメタ的なため、『ゲーム的』という表現のほうがしっくり来る気がする。ナラティブ的なレビューはこのゲームに馴染まないのかもしれない。だから、ナラティブモードから分析モードにモード変更しないといけないと気付いてからは、割とすらすら書けた。

ストーリーについて

先にも書いたように、ストーリーに関してはピンと来ないというのが正直なところだ。私が小学生だったら、「なんかキラキラしてるなあと私は思いました。」という感想文を書いていただろう。

端々に見られる悲惨さの割に、メインの見せ場はかなりキラキラしていて、けれど意図された不気味なキラキラさとも違うのだ。しかし本編はキラキラしているけど、設定周りは絶望なんだろうなというのはプレイしていても感じ取れる。だから、私はどちらかというと魔王サイド(オリジナルの主人公)の方をプレイしたかった。1000年の絶望をあなたに。

ストーリーもゲームとしても非常にメタ的で、いわゆる典型的なファンタジーゲームの王道である「主人公が大事な人や世界を救うために魔王を倒す」というストーリーラインを使いながら、「ま、それ酷いことだし希望もないんだけどね! テヘッ」ってやってるのがこのゲームだ。

2周目以降、マモノの声が聞こえるようになる仕様もそう。単なる知性のないモンスターだと思われていたマモノにも人間(レプリカント)と同じような思考があり、というかマモノは元人間であり、レプリカントと同じような理由で戦っている。主人公の正義が悪になる。私は主人公が段々愚かに見えてきて少しクスッとした。

ただ、正直なところその辺に関してはプレイした限り多少期待外れだった。漏れ聞く噂を知っていたので若干肩透かしを食らった感があるのと、オートマタの方が本編が辛いのと、真・女神転生IVシリーズで厄耐性がついてしまったのだと思う。まあ、設定的には絶望らしいので、設定資料集を買えということですね。

プレイヤーに「いいから早く成仏してくれ」と懇願される善意100%の主人公とか(真IV)、終盤の展開がどう転んでも人の業で、プレイヤーによっては性癖(※誤用)複雑骨折とかで(真IV FINAL)大変健康によく、設定やスピンオフを知るともっと地獄を堪能できます

特にムービーシーンは感動的なのだが、セリフで多くを説明してしまうのと、やたら感動的な方に寄せてくるため「なんかキラキラしてるな…」という感想になってしまう。恐らくその辺が微妙に噛み合わず、私にとって地獄みが薄れているのだと思う。本編で純粋に感動していれば、絶望的な裏設定を知った時の落差でギャーとなって絶望ジェットコースターを楽しめたはずなのだが、非常に残念である。

私はまず本編で地獄を味わいたい。けれど本編は意外なほどキラキラしている。しかもそのキラキラがあまり嘘くささを感じない。しかも近視眼的に本編だけを切り取って見てみれば、キラキラなのは嘘じゃないと思われる。でも巨視的に見てみれば絶望だけどね、という。これがメタ的でなくて何なのだ。だからナラティブとはちょっと違う。

ニーア レプリカント』は「本編はキラキラしておいて設定でどん底に落とす」タイプのゲームかと思うが、なんかこう、本編で血(絶望)が足りなかった。ちなみに登場キャラの中で私が一番近いのはテュランかな。

ゲーム自体・BGMなどについて

リマスターというかリメイクというかアップデート版、な本作だが、そういう機会があり、なおかつ出来もよいというのは非常に恵まれたことだと思う。PS3時代に気になってはいたものの、当時はプレイしなかった私のようなプレイヤーもプレイできるのは大変めでたい(アクションが今に輪をかけて下手くそだったので…)。

制作費が少なかっただろうことを感じさせるが、その少ないリソースの中で楽しませる工夫は面白い。

フィールドは狭くて数も少ないが、主人公の少年期と青年期で操作感や出現する敵を変えることで変化を出している。また、特に少年期のサブクエストではストーリーの都合上、何度も行ったり来たりさせることで必要なフィールドを節約している(正直、少年期はほとんどをサブクエストが占めていて、結構面倒くさい。一応、『生活のために金を稼ぐ』という動機をつけてはいる)。周回を重ねることで展開が変化する作りや(これは定番らしいが)、コンプリート系の要素(サブクエスト、武器強化)やリアルタイム連動型の要素(栽培)によってプレイ時間のボリュームを稼いでいる。

もっとも、その工夫にも限界はある。2周目以降は青年期を繰り返すのだが、やっぱり段々飽きてくる。でも多分、主人公たちもこのうんざりする繰り返しのループの中にいる気がする。だからプレイヤーはそのうんざりさを追体験しているとも言える。限度はあるけど。

BGMのクオリティも高い。オートマタに比べると音が若い感じがする。ただ、プレイ中は若干ボーカルがうるさく感じられる部分もあったので(私のオーディオ環境やミキシングの関係かと思う)、設定で音量を多少下げていた。純粋にサントラとして聞くなら、1曲1曲のキャラが立っているので聞きやすいだろう。一方、日記内のダンジョンの音楽は、本編のクワイアを多用する曲から一転して異質さを感じさせるEDMで、こちらもとてもよい。

背景美術も美しい。牧歌的なファンタジー世界に、現代の人工的な要素を混ぜた異質さが好き。

ロッコっぽい

キャラクターについて

一緒に戦う仲間とは総じて仲がよく、よかったねえと目を細めて眺められる。やっぱり仲間が欠けていく展開には前提として仲の良さが必要だ。幸福とは絶望を味わう最良のスパイス。

ところで主人公の行動原理は「妹を救うこと」だが、その肝心の妹のヨナが全く庇護しようという気を起こさせない。何もできないのに余計なことをするし、大人しく食材を要求していたかと思いきやメシマズだったり、魔王の苦労をフイにするくせに魔王のことは罵らなかったり。多分わざとそういうキャラ造形なのだが、思っていたより魔性成分が薄かったので、単純にウザいキャラになっている。主人公の盲目的な献身っぷりも狂気さが足りない気がするし…いやまあ、ピュアに献身的な方が恐ろしいのか? 小説だとアレでアレだったりするらしいが。「私は何も悪くないよ? どうしてみんな怒ってるの?」と周りを振り回すキャラだったら多分好きになっていたかもしれない。

主人公もマモノの声が聞こえないためにマモノ側からすると悪だ。というわけで、ストーリーの中では、一見破天荒なカイネが一番まともに思える。なお、キャラ造形に関してそこまで引き出しは多い方ではないように見える。

オブセッション的要素

きょうだい(兄妹、兄弟、姉妹 etc.)

主人公と妹の関係に似たようなパターンが作中で繰り返される。ある程度意識的にやってはいるだろうが(ロボット山の兄弟など)単純にやらずにはいられないといった感じがする。

あと、おねショタも好きだよね。ショタというより第二次性徴ちょい過ぎくらいの微妙なあわいの時期の男子だが。

男のために全てを捧げた結果、怪物に変貌してしまう女

悲劇的要素が好きなんだろうなと思うが、『マダム・バタフライ』的な男の都合の良さを感じるので個人的にはあまり好きではない。『ニーア レプリカント』の「人魚姫」は設定資料集からの追加要素だそうで、『ニーア オートマタ』に出てくる機械生命体「ボーヴォワール」は、この「人魚姫」を感じさせるキャラ造形。

※周知の通り、史実のボーヴォワールはああいう性格ではない。機械生命体「サルトル」はちょっと史実寄りなんだが。

メタ的視点、接ぎ木/アマルガム的思考、ひねくれて斜に構える

ビデオゲームというものをメタ的に捉える、いわゆる第四の壁を感じさせる仕掛け(周回やセーブデータ削除など)。オートマタもそうだったがこの辺は面白みがある。

  • 「オーブだろうがクリスタルだろうが」とか主人公が言い出すようなメタさ。ファンタジーもののパロディ。
  • 急に時代背景やゲームジャンルが変わる、接ぎ木的でアマルガムな作風。
  • ひねくれずにはいられない。もうどうにもとまらない。

付記・パンチラトロフィーについて

某ルートで取得可能なパンチラトロフィー、これは『ニーア オートマタ』からの逆輸入らしい。しかし率直に言ってそのセンスはどうなんだ。『オートマタ』ですら「エロゲーならいいけどさあ…」という感じだったが、カイネはキャラ設定的に更にセンシティブなのに、そこを面白がられても全然面白くなく、これだけは素直にダメだと思った。誰か止めろ。

おわりに

何だかんだ言ったし微妙にツボからずれている部分もあるが、独特の持ち味のゲームなのは間違いない。とりあえず、PS3時代の自分へ「リメイク版が出たしプレイしたよ」と言いたい。美術面と音楽は最高。あとは設定集を買ったら地獄に行けるかな。