かたくりかたこりかたつむり

やっぱり誤字脱字は氷山の一角

『INSIDE』感想・レビュー:無力な少年が敵の目をかいくぐって辿り着くその先は…

少年がひとり暗い夜の森を駆けてゆく。何者かに追われているのだ。見つかれば、待っているのは容赦のない死。口を塞がれ、銃で撃たれ、犬に噛まれ、あるいは溺れて死ぬ。彼らはあらゆる手段で少年を殺そうとしてくる。それに抗う術を持たない少年はとにかく逃げる。

身を隠し、ひた走る少年のうわずった息遣いと、文字通り赤子の手をひねるように少年の息の根を止める大人たち。少年の断末魔。理由は分からない。けれど、とにかく逃げなければならない。これが『INSIDE』の冒頭だ。

『INSIDE』は『LIMBO』のPlaydeadによる横スクロールパズルアクション(ちなみに"Play dead"は『死んだふりをする』の意)。「謎に包まれた状況」「ギミックを解いて進む仕掛け」「あっけなく死ぬ少年」という『LIMBO』の要素はそのままに、モノトーンの影絵調だったビジュアルなどの演出面が正統進化した作品だ。

LIMBO

INSIDE

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デフォルメされたグラフィックではあるが、『LIMBO』と同じく、無力な少年があっけなく残酷に死ぬトラップが盛りだくさん。そういうテイストが大好きな人(私だ)にはたまらないが、小さなお子さんがいる人、子供がそんな目に遭うなんて耐えられないという人にはあまりおすすめできない。そういうのが大丈夫な向きには、キャラクターがあっさり死ぬ不穏な死に覚えゲーとして大変おすすめ。

とは言っても『LIMBO』に比べるとパズルのタイミングのシビアさは控えめ。他にも、わずかでも高いところから落下すると死亡したり、頭まで水に浸かった瞬間に溺死する『LIMBO』と比べると、主人公も多少打たれ強くなった。難易度を求める人には不向きだが、パズルに詰まることなく、よりストーリーへ没入しやすくなった点は、この作品的には評価できる。

森や畑を抜けると、少年は何らかの施設へと足を踏み入れる。そこでは意思を失った無気力な人間たちが登場する。彼らは少年がヘッドギアで操る通りに動き、あるいは単純なプログラムを組み込まれた機械のように少年を補助する。少年は無慈悲にも彼らを利用する。

更に先へ進むと、少年が侵入した施設の不穏さが少しずつ明らかになってゆく。

終盤、それまで無力だった少年は一転して破壊的な力を得て、プレイヤーは全てをなぎ倒していく爽快感を味わう。しかしそれも一時のこと。あなたは謎の施設からだけでなく、文字通りこのゲーム自体からも放り出されてしまう

私はこういうゲームは感覚的に何となく解釈するのが好きだ。一般的にこういう場合の「考察」と呼ばれるものは、パズルの完成やクイズの答え合わせに近い。でも、ゲームは「体験」のメディアなのだから、自身の体験に向かい合うのが大事じゃないだろうか。作者の意図よりも、自分が何を読み取ったか

プレイヤーは、謎を知りたい(もしくはトロフィーをコンプリートしたい)という欲を原動力として、要所要所に隠されたオブジェクト(オーブ)を探していくだろう。その過程でうっすら判明する事実と、『INSIDE』というタイトルの意味するもの――あなたは「内側(INSIDE)」から脱出したと思っている。あなたは自分の意志で動いていたと思っている。でも本当は…?

「内側」とは施設のことなのか、それとも別の何かの「中」のことなのか。まるで芥川龍之介の『藪の中』のように、『INSIDE』のストーリーにおける真実は定かでない気もする。なぜなら、すべては「内側」で起こったことなのだから。

※ちなみに、本作のサウンドトラックは人間の頭蓋骨を使って録音されている。

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※画像はすべて『INSIDE』『LIMBO』より