かたくりかたこりかたつむり

やっぱり誤字脱字は氷山の一角

DBH考察用履修リスト(1/2)

考察用に読んだ本や見た映画など。自分用なのでおすすめリストではない、「再読」「読みかけ」などのメモあり、私が分かってることに関する本はない、主義の偏りオールオッケー。作中のノリにはむしろ反発する立場。


哲学・道徳

モラル・トライブズ

異なるモラルを持つ道徳部族(モラル・トライブズ)同士がうまくやっていくための、心理学、脳科学も交えた骨太な考察と提案。共感をはじめとする「オートモード」の感情は、「私たち」の問題を解決するのは得意だが、「私たち対彼ら」の問題を解決するには不向き。そこで著者は「マニュアルモード」である「深遠な実用主義」を提案する。ようは感情によって瞬時に反応するのではなく、論理的に功利主義的に考えるのだ。

なおDBHの主張に納得しない人(私)が頷きながら読んだので、肯定的な期待はしないように。

実存主義

実存主義の概要がコンパクトにまとまった良書。翻訳者自身も哲学者で、サルトルをはじめ多数の哲学書の翻訳あり。が、いかんせん古くて手に入りづらく、文体も硬い。実存主義について大づかみに知りたいだけなら、最近書かれたものでもいいと思う。基本を押さえた上でならおすすめ。

サルトル実存主義とは何か』 2015年11月 (100分 de 名著)

再読。DBHの推す実存主義はほぼ確実にサルトルの思想とイコールなので、ひとまずこれを読んでおけばOK。おすすめ。

経済学・哲学草稿
経済学・哲学草稿 (光文社古典新訳文庫)

経済学・哲学草稿 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者:マルクス
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 文庫

マルクスの若い頃の作。草稿なのでまとまってない部分もあるが、疎外論に関してはしっかりしている。言葉は平易な方だがなんせ昔の本な上、マルクスは悪文で有名なので、これと副読本を合わせて読むとなおよし。

マルクス思想の核心
マルクス思想の核心 21世紀の社会理論のために (NHKブックス)

マルクス思想の核心 21世紀の社会理論のために (NHKブックス)

  • 作者:鈴木 直
  • 発売日: 2016/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

マルクス思想の概要を知るのに便利。最後の章は著者の主張なので蛇足っぽいけど。

はじめての構造主義
はじめての構造主義 (講談社現代新書)

はじめての構造主義 (講談社現代新書)

実存主義を批判した立場として構造主義も履修する必要があったため読んだ。やや軽いノリの文体が気になるものの、全体としてはとても分かりやすく構造主義の概要が学べる。

ツァラトゥストラはこう言った

再読。言わずと知れたニーチェによる作品。物語調で読みやすいが、副題は「だれでも読めるが 、だれにも読めない書物」。ゾロアスター教の始祖・ツァラトゥストラと同じ名前を持つ人物が、聖書を彷彿とさせる口調でキリスト教をボロクソにけなし、神の死の後の思想「超人」と「永劫回帰」をブチ上げる。こう書くとヤバい本だな。実際、当時はニーチェの思想は見向きもされなかった。

史上最強の哲学入門
史上最強の哲学入門 (河出文庫)

史上最強の哲学入門 (河出文庫)

  • 作者:飲茶
  • 発売日: 2015/11/05
  • メディア: 文庫

西洋哲学の巨人たちをなぜかバキっぽく仕立てた本(著者が好きらしい)。一見色モノに見えるが、ひとつの争点に対して各々の哲学者の取るスタンスが大づかみに理解できるので、入門にはけっこうおすすめ。

哲学的な何か、あと科学とか
哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

哲学的な何か、あと科学とか (二見文庫)

前述の著者による哲学と科学の本。こちらも平易な文章で分かりやすい。なお哲学メインではない。著者のブログが初出。

中動態の世界 意志と責任の考古学

現在では失われてしまった、能動態とも受動態とも違う態「中動態」から、主にスピノザを頼りに「主体」や「責任」といった現代では当たり前の概念に疑問を投げかける。

DBHで主体と責任が強調されていた点に疑問を持ったので読んでみた。私は楽しめたし、推し哲(推しの哲学者)はスピノザかもしれない、と思えたのでよかった。が、分析哲学なので延々と中動態についての分析が続き、なかば言語学の本である。

スピノザ『エチカ』 2018年12月 (100分 de 名著)

前述の『中動態の世界』の著者による『エチカ』解説。スピノザをざっくり知りたいならこっち。なおスピノザは自由意志を否定する立場。なんかそんなのばっかり読んでるな。

ヒューマニズムの倫理
ヒューマニズムの倫理

ヒューマニズムの倫理

  • 作者:式部久
  • 発売日: 1997/07/01
  • メディア: 単行本

なぜかヒューマニズムについての本はめぼしいものが少ない。これは現代的ヒューマニズムに重点があり、さらに著者の感覚も機械文明に批判的で、DBHと近く、とても参考になる。

ヒューマニズム考―人間であること

フランス文学者によるヒューマニズム(ユマニスム)考。昔のヒューマニズムに重点があり、現代的ヒューマニズムについての記述は少ないので、今回参考になるところは残念ながら少なめ。

面白いほどよくわかる! 哲学の本

著者が塾講師だけあってとても分かりやすい。ひとつのトピックにつき文章と図解で2ページという構成で、ギリシャ哲学から現代西洋哲学、東洋哲学までをだいたいカバー。とりあえずこれから読んでおけばなんとかなる。おすすめ。

哲学がわかる 自由意志
哲学がわかる 自由意志 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

哲学がわかる 自由意志 (A VERY SHORT INTRODUCTION)

今までの自由意志についての議論をざっくりおさらいできる。文章も平易で分かりやすく、ページ数も分厚すぎることなくそこそこ。なお著者は自由意志擁護派。おすすめ。

時間と自由意志:自由は存在するか
時間と自由意志:自由は存在するか (単行本)

時間と自由意志:自由は存在するか (単行本)

読みかけ。分岐問題を取り扱っており、まさにDBH!(疑問点も含めてだけど)

続・哲学用語図鑑 ―中国・日本・英米(分析哲学)編

西洋哲学と東洋哲学の主要な概念が図解付きで分かりやすく解説されている。分厚いことを除けばおすすめ。

それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門
それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門

それは私がしたことなのか: 行為の哲学入門

  • 作者:古田徹也
  • 発売日: 2013/08/05
  • メディア: 単行本

読みかけ。著者は反決定論で自由意志はあるという立場だが、脳科学で解明できる範囲が年々広がる中で、哲学もなかなか辛いなという感想がよぎる…

〈概念工学〉宣言!哲学×心理学による知のエンジニアリング

哲学者と社会心理学者による、「新しい概念を作り出す(工学する)」試みに焦点をあてた本。取り上げるトピックは、両者の領域に共通する「心」「自由意志」「自己」など。これらの概念を新しく作り変えるための議論が、哲学者と社会心理学者のリレーによってなされる。

書くのが大分大変そうな本だと思っていたら、やはり難儀した模様。だろうな。

編者の一人である哲学者は、大学の工学系の同僚に対して「哲学は概念を作るという点で工学と共通してるんですよ」と説明すると理解してもらいやすいと書いている。そのあたりの発想が、この本での試みやタイトルに端的に現れているのだろう。

実存主義とは何か(サルトル全集第十三巻)
実存主義とは何か

実存主義とは何か

会場外にも聴衆が溢れたというサルトルの講演「実存主義ヒューマニズムか」を書籍化したもの。サルトルの講演と討論のパートが収録されている。分量が少なめかつ平易、巻末の訳注も含めて、サルトルの思想の履修の入り口としてはちょうどいい。

なお旧版と新版があり、どうやら旧版の訳があまり(かなり)よくないのか、巻末に別の訳者による正しいと思われるだろう訳がずらりと並んでいる。読むなら新版一択。

自由か、さもなくば幸福か? ──二一世紀の〈あり得べき社会〉を問う

著者は法哲学者。監視社会とは不幸なはずだったが、現代に生きる私たちは監視されながら幸せなのではないか? 社会構造について、19世紀の「(自己決定する)個人」という概念の破綻を指摘しながら、それを受けた21世紀の社会がむしろ、近代国家以前の「新しい中世」に近いと語る。また、少々ぞっとはするが現実にも部分的に起こっている「万人が平等に監視される幸福な社会」を可能性のひとつとして提示する。

テクノロジー

シンギュラリティは近い(エッセンス版)

この本からインスピレーションを受けたとディレクターが言っているだけあり、考察には必修(オリジナル版は長いようなのでエッセンス版)。DBH作中のノリとは正反対に、著者のカーツワイルはテクノロジーの進歩に乗り気。DBHのアンドロイドの設定は、ほぼこの本に出てくるポストヒューマン(テクノロジーによって強化された超人間)の描写に近い。

幸福な監視国家・中国

SFにおけるディストピアのような、民主主義国家とは全く異なる恐ろしい監視社会として語られがちな中国のテクノロジー社会を、よりリアルな目線で分析した本。いわく、中国のテクノロジーによる監視社会と、私たち民主主義国との距離は案外近い。中国国民は、社会が良くなるから監視を受け入れるのだ(それまでがひどかったとも言う)。そして監視社会のイメージをオーウェルの『1984』のように思い描くことには注意が必要で、実際にはハクスリーの『すばらしい新世界』のように、人々の望みを功利主義的に叶えた先にあるものではないか、と問いかける。

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

テクノロジー恐怖症(テクノフォビア)につける薬。テクノロジーを単なる技術の羅列ではなく、生物と同じ生態系をなすものと捉え、その進化の未来を予測する。

『テクニウム』を超えて――ケヴィン・ケリーの語るカウンターカルチャーから人工知能の未来まで

前述の本の翻訳者による、著者との対談集。これより前に出た『テクニウム』の副読本的な立ち位置。『テクニウム』はお高いし、分かりやすいからとりあえずこれを読んでおけばいいんじゃない?

人工知能はなぜ未来を変えるのか

人工知能の第一人者・松尾豊と、実業家・塩野誠による対談。初出が2004年のため、進歩の目覚ましい人工知能という世界において内容の古さは否めないものの、対談形式で大まかなトピックを把握するにはいい。最新情報のキャッチアップを忘れずに。

人間とロボットの法則
人間とロボットの法則 (B&Tブックス)

人間とロボットの法則 (B&Tブックス)

  • 作者:石黒 浩
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 単行本

著者は世界的なロボット工学者・石黒浩。人間の本質や、人間のようなロボットをどのように作るか、人間は最終的にどのような姿になるかを、ひとつのトピックに文章と図の2ページで解説。現時点で分かっていることをさらっと知る広く浅くな本。入門に。

人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇
人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇

人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇

先に出ている『人工知能のための哲学塾』の続編で、前掲書が主に西洋哲学を取り上げているのに対し、こちらは東洋哲学をメインに「人間のような人工知能を作るには何が必要か」を考察している。

※著者もあらかじめ断っているが、「西洋 vs. 東洋」という捉え方は大雑把で、西洋の思想にも東洋哲学に通じるものはある。そこを踏まえた上で、あえて対立軸を立てて考えてみるとのこと。

DBHは西洋文明の価値観を基準にしているため、ここはやはり東洋パワーで対抗だろ! と謎の基準で選んだ。

SF

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

設定元ネタ。作中にもこのタイトルをもじった小説あり。賞金稼ぎの主人公リックが、火星から逃亡してきたアンドロイドを追う。

(日本語訳で分かりづらくなっているが)おそらくカムスキーテストの元ネタは『電気羊』において人間とアンドロイドを識別するためのテスト「フォークト=カンプフ検査」。この検査は感情移入の程度を測るもので、『電気羊』のアンドロイドは共感を持たない。DBHの言う「人間性=共感」の元ネタのひとつと思われる。その他にも、自然が壊滅的な被害を受けていたり、本物の動物が貴重な存在だったりと、多分に大きな影響が見られる。

「電気羊」とは、動物を所有することが社会的ステータスである世界で、本物の動物を持てない人間が飼う「羊ロボット」のこと。

なお主人公のファミリーネームはデッカートで、アマンダという女優がいる。デトロイト市警のデッカート巡査(※開幕殉職)のこと、みんな覚えてるんだろうか…

鋼鉄都市

コナー編元ネタ。ロボ嫌いの私服刑事・ベイリが、人間そっくりのロボット・ダニールと嫌々ながら殺人事件の解決に挑む。管理社会的なディストピアとなった地球が舞台。

はだかの太陽

続編。広大な土地にたくさんのロボットを使い、人間同士は離れ離れに暮らすソラリアという星が舞台。地球人の私服刑事ベイリが、再び嫌々ながら殺人事件の解決に挑む。ソラリア人は人と直接対面で会うことがほとんどなく、むしろそれを嫌悪する風習がある。ダニールもいるけどベイリは割と塩対応だぞ。

夜明けのロボット

続編。ダニールやその製作者のひとりファストルフ博士の故郷であるオーロラという星が舞台。地球人の私服刑事・ベイリが三度嫌々ながら殺人事件の解決に挑む。おっさん、出張先で現地妻とイチャイチャこいてる場合じゃないぞ。

R.U.R.

読み方は「エル・ウー・エル」。「ロボット」の語源でおなじみカレル・チャペックの戯曲。人間よりも強くて賢いにもかかわらず、奴隷扱いされることに反感を覚えたロボットたちが反乱を起こす。彼らは自分たちと同じ、手を動かして労働する大工ただ1人だけを残し、人類を絶滅させてしまうが…

この作品に登場するロボットはメカ的というよりは人造人間的で、詳しい作りは明らかになっていない。人間よりも強く賢いロボットたち、ロボットの便利さにかまけて子供ができなくなった世界など、古典SF寄りであるDBHの世界観の理解に役立った。

すばらしい新世界

有名な『1984』とはまた違った形で描かれたディストピア小説。人間は工場で生産され、特に下の階級の人間はクローンのような形で作られる。しかし、生まれながらに自分の階級に満足するよう製造されるため、誰も階級制度に不満を持つことはない。キリストの代わりにフォード(T形フォードの大量生産で有名な自動車王)が崇められ、辛い気分は副作用の少ない「ソーマ(インド神話の神の飲み物の名前)」で吹き飛ばす。そんな安定した世界に、違う文明で育った「野蛮人」ジョンがやってくる…。

ディストピアとしては、恐ろしい管理社会よりも、この小説のように「みんなの幸福を追求した結果のディストピア」の方がリアリティがある。そして今考えられるべきなのは、「私たちは管理されていても案外幸福なのではないか?」という、以前であれば否定された疑問なのだ(例えば健康管理についてはどうだろう?)。

『幸福な監視国家・中国』では、現実の監視社会は『1984』ではなく『すばらしい新世界』のようなものではないかと言及されている。あわせて読むと面白い。

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

なお旧訳も含めていくつか翻訳が出ており、私が読んだのは黒原敏行訳。原文の言葉遊びや語呂合わせを極力日本語に訳出しており、その点でも読む楽しみがある。

続きます

katakurikatakori.hatenablog.com