かたくりかたこりかたつむり

やっぱり誤字脱字は氷山の一角

『Everything』感想・レビュー 私はすべてである

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ある意味で有名な『Mountain』の作者、デビッド・オライリーによるゲーム。タイトルの通り「何にでもなれる」ゲームだ。

プレイヤーはあらゆるモノになれる。ロバや馬などの哺乳類から、鳥、花や草木、虫、花粉、原子、文房具、ビル、銀河、多面体、単なる文字列まで。

名前を入力してゲームをスタートすると、そこは草原。プレイヤーは特定の動物としてその世界に存在している(よく見る哺乳類が多いけどランダムなのかな?)。プレイヤーは同種の仲間と合流し、仲間と歌い、仲間を増やし、仲間と別れ、そして違うモノになる。まるで人生のようだ。

デフォルメされた動物が、歩くのではなく回転するように移動する様は独特かつユーモラス。

ちなみに同作者の前作『Mountain』では、プレイヤーは空中に浮かんだ山となる。山は時々「ここはどこ?」などと思考し、日が沈んではまた昇り、時々どこからかガラクタが飛んできて山に突き刺さる。そしてエンディングは…これは自分で直接見たほうがいいだろう。『Everything』はこの『Mountain』の精神を受け継ぎ、規模がかなり大きくなったゲームと捉えることもできる。

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Mountain | マウンテン

Mountain | マウンテン

  • David O'Reilly
  • ゲーム
  • ¥160
apps.apple.com iOS版もあり

また、随所で哲学者アラン・ワッツによる音声が流れるが、その内容はまさにこのゲームのテーマそのものだ。

私はすべてEverything」―それはこのゲームのすべてでもある。講義では、アラン・ワッツが個々の人間についてビッグバンの結果ではなく、ビッグバンの途中」と表現している。私もあなたも、今たまたま人間の状態をしているだけの存在。だから私は原子から銀河まで何にでもなれるし、私はすべてなのだ。

このゲームには様々なスケールが存在する。私たちヒトのいるスケールの世界から、ミクロの世界、果ては宇宙空間まで(もっとも、このゲームにはヒトだけは登場しない)。プレイヤーはこの大小様々なスケールを上がったり下がったりして移動できる。

興味深いのは、ミクロの世界(原子など)まで行っても、マクロの世界(銀河系)まで行っても、行き着くところが同じ(多面体などが存在する数学的な空間)ということ。つまり極小は極大であり、極大もまた極小なのだ。一見異なるものが実は同じところへつながっているという構造は、西洋の直線的な世界観ではなく、東洋の円環的な世界観を感じさせる。

さらに、ある特殊なエリアでは、存在するモノすべてが後悔の念に囚われている。 あの時ああすればよかった、頑張ってきたつもりだったのに自分に残ったものは何もない …どの会話を聞いても気が滅入るものばかり。そしてプレイヤー自身もまた、この後悔と憐憫の地獄に閉じ込められてしまい、出ることができない。そこから脱出するためには、今までせっかく溜め込んできたものを一旦すべて手放す必要がある。けれど、それはむしろ晴れ晴れとしていて、仏教の悟りを彷彿とさせるような瞬間だ。前述のアラン・ワッツが、東洋思想を西洋社会に紹介した一人であるのも影響しているかもしれない(もちろん言うまでもなく、鈴木大拙の存在は大きい)。

『Mountain』でも見られたように、『Everything』にもアニミズムなどの東洋的な思想の片鱗を感じるのは偶然ではないだろう。

このゲームには膨大な数のモノが登場する。それをコンプリートするのもプレイの仕方のひとつだが、心のおもむくままアリになったりベンチになったりクレーンになったりするのが個人的にオススメ。また、放っておくとオートモードになり、気付くと自分がいつの間にか財布の群れになっていたりする。世界は私が何もせずとも変化していくものなのだ…

前回の記事でnot for meなゲームの話をしてしまったので、perfect for meなゲームの話をしようと思ったのだが、この『Everything』もよく考えてみるとあまり万人受けはしないのだろうか。ほとんどの人はそうだと思うが、本当に好みの作品に対しては、それが「人を選ぶ」ものだという感覚がまるでない。だが恐らくはかなり人を選ぶゲームだとは思う。

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ちなみに、トロフィーはこんな調子である。これが好きな人には向いているし、全く興味がそそられない人は別のゲームをやったほうがいい

ロゴマークから何となく予想していたが、推し生命体(仮)がキーなので私大歓喜。ただし、その生命体(仮)のカテゴライズには若干異議がある。

とはいえ、個人的には「心に残るゲーム」堂々の殿堂入りだ。

ベン・ルーカス・ボイセンとセバスティアン・プレイノによるサウンドトラックも、アンビエントでこのゲームによく合っている。ポストクラシカルの名門レーベル・Erased Tapesからリリースというところもポイントが高い。

www.erasedtapes.com

配信のみだが対応プラットフォームは多め。

Everything

私はPS4版でプレイ。

Steam版のバンドルはサントラがお得に手に入る。

ほか、日本語版はSwitch版、PLAYISM版もあり。

太っ腹なことに、ゲームクリエイター向けにモデリングデータを無料配布している。

automaton-media.com